2022年2月に始まったロシアのウクライナへの侵攻が、世界中に大きな衝撃を与えている。激震が世界中を駆け巡り、EUを中心にロシアへの制裁と、ウクライナ支援が始まっている。米国でもウクライナへの武器輸出が始まったが、バイデン大統領は幾重もの板挟み状態のように見える。
エネルギーに関して言えば、ロシアへのエネルギー依存が高い国にとって、エネルギー自給率の向上が、国家安全保障の基本であることを改めて認識する事態となっている。米国は、2010年代に始まったシェールガス、シェールオイルの増産で、エネルギー自給率がそれまでの80%から、ほぼ100%(※)となっており、エネルギー問題が直接の安全保障に影響を与えなくなってはいる。過去何度かのオイルショックの痛い経験を経て辿り着いた自給率である。
ちなみに、米国はロシアから石油を輸入しているわけではないが、講師の住むシリコンバレーのガソリン価格は、ここ3ヶ月で1.5倍になった。世界のエネルギーと経済は密接に繋がっている。
同時に、2021年1月にスタートして既に1年以上が経過したバイデン政権の目玉政策の一つであるクリーンエネルギーへの転換は、政治目標になってはいるがあまり進んでいるとは言えない。連邦政府が旗振り役になることで大きく進むことが期待されているが、ウクライナ問題が、ジワジワ影響を投げかけている。
そもそも、化石燃料セクター(ガス・オイル業界)を中心に、これらの方針や数値目標に対する批判は根強く、多くの人は、「脱炭素化数値目標は政治的プロパガンダで、実現できるとは思っていない」のが実情である。
しかし、反対勢力であるガス・オイル業界も、水素・CCSに関しては、前向きのように見え、大手とスタートアップの両方が中心となって、技術的にもコスト的にもここ数年で大きく前進した。ウクライナ問題も後押しして、2050年に向かって、各種の技術なりサービスなりインフラが、それぞれの得意分野で貢献すると思われるが、技術・経済性・政策がバランスされなければいけないし、それぞれの技術やサービスは単独では成り立たない。
これらの相反する課題がどの方向に向かうのかを、米国(シリコンバレー)に37年居住し、エネルギー問題の流れをつぶさに見てきた講師が、今回は実際に会場で、最新のアップデートを含めて、その全体像を俯瞰すると同時に、相関性を解説する。
(※) 輸出・輸入がそれぞれ20%程度あり、それらを相殺しての割合である。